〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。


ご飯はとうに炊けていた。
かなり前の事だ。

炊き上がりを知らせるメロディーと、ふっくらとしたご飯を連想させる、良い香りが漂っていた。
ご飯好きの私には堪らない匂いだ。

なのに...。疲れてしまった。もう、グッタリ...。

陽人だって仕事終わりのはずなのに。

どうしてこうも平然としていられるのだろう。

体力の差なのだろうか。
それとも、男女の...違い?
経験不足の私には解らない。

「京、少し太ったか?」

耳元で呟かれた。...身体に悪い。感じる...低いいい声。
だけど、言われてる言葉は酷い...。
それに、今からご飯食べるんだからね...。

「言葉には気をつけて。どうせ言うなら、少しグラマーになったかって、言って」

プニプニと脇腹を摘まれた。

「これはグラマーと言うには場所が違うだろ。
移動させるか?こっちに。
だけど...この柔らかさは好きだけどな」

またプニプニ摘む。
そして、気持ちいいと言って後ろから強引に抱きしめる。...。

まったく...。落としたかと思えば持ち上げられ...。嬉しいじゃない?

大人の変な感情ね...。
ストレートな誉め言葉よりも、理屈がある方が嬉しく感じてしまうなんて。
それとも陽人の理屈っぽさに慣れたのかな。

昔から陽人は欲しい言葉をくれる男子だった。

優しさを演じられる?男子。本当に優しいのか、そこは解りづらい。

最早それは素になったのかも知れない。
繰り返し続けていれば、優しいになったと同じ事になる。
例え本質は違っていたとしても、優しさは努力で作れる...。
どうであれ、結果優しいならいいじゃないかって事。


後ろから回されていた腕は裸の胸に巻き付いていた。

陽人は私を抱き抱えるようにして、頭は重なるように肩に乗せていた。


「...ねえ?ご飯どうでもよくなったとか、本気で思ってるでしょ?」

「ああ。...このままがいい」

甘い...。それは私も...いいけど...。
これはこれ。あれはあれよ。

「私は食べたい。とっくにご飯も炊けてるし。
お腹空いてる上に、更に空いた。
このままだとプニプニが無くなってしまいそう。
ゲッソリ痩せちゃうかも」

「ゔ〜ん。...あっさりしてるな、京は。
もっと俺に貪欲にならない?」

「女らしくない、色気が無いって、はっきり言ってくれていいから」

「色気はあるさ。現に俺はこんなに誘惑に負けてるし...」

誘惑したつもりは無いけど。
どっちかと言えば、陽人が強引に...でしょ。
表現は自由よね。

首筋に唇が触れる。

「わっ、...もう。ダメ...止めて」

反転させられたかと思うと正面からキスの嵐が襲って来た。

「もう、ん、ダメダメ。ん゙ん、おしまい」

「...ダメか...」

この男の本性が本当に解らない。

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