〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。

私は康介さんの事を知らなかった事になっている。
課長の部屋に来るようになったある日、今日のようにばったり出くわした。
アッと驚いた顔をした私に、透かさず康介さんは目配せをした。
その時が初対面。それからの知り合いという事になった。

なぜ康介さんがそうしたのかは解らないけど…。
…陽人に関わる事になるからだろうかと思った。


課長の部屋で康介さんはご飯を済ませた。

やっぱり、美味しいわ〜って、食欲は男子並だから、持って帰って来た物は綺麗に平らげられた。
そしてお茶を入れた私と一緒に和菓子を頬張ると、堪能して帰って行った。
私にハグをして。

「全く…。嵐のような男だ。油断も隙もあったもんじゃない。
しかし、なんだろうな、よくタイミング良く会うもんだ」

すっかり康介さんのペースに巻き込まれて、お陰で凄く大切な告白があった事も忘れていた。

「京、出張に必要な物はこっちにある物で大丈夫だろ?」

「そうですね。は、い、大丈夫です」

「じゃあ、週明けはここから出社して、そのまま出張に行こう。
だから、明日も明後日も一緒に居よう」

「はい」


「片付けは適当で…明日でいいぞ…」

「はい、でも少しだけなので直ぐに終わります」

「京…」

後ろから抱きしめられて、耳に息がかかってくすぐったい。

「…ずっと一緒って嬉しいなぁ」

もう…、課長…。

ガチャ。ドカドカ…。

「もう、忘れ物しちゃったじゃない、って。あ、もう、またぁ?本当にあんた達は…」

「…それはこっちの台詞だ。毎度毎度、邪魔ばかりして。勝手に上がって来るんじゃないよ…」

「あら、お生憎様。鍵かけてない方が悪いのよ?」

それはそうかも知れないが。

「泊まっていこうかしら」

…。

「冗談よ。ごめんなさ〜い。今度こそ退散するわ〜。続けて頂戴。じゃあねぇ」

一難去ってまた一難か。もう来ないよな。
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