〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。
手に持ったグラスは取り上げられた。
うっかり落としてしまう事は間違い無かったから。
クッションを背にソファーにゆっくり倒されていった。
上から見つめる課長の目。捕らえられて逸らせない。
「京…有難う」
抱きしめられた。
ん、…幸せ…だ。抱きしめられてこんなに気持ちが充たされていくなんて。
上半身の重みも実感させてくれる。
拘束感とこの重さ…、実体のある幸せ…。
耳の上にあった課長の唇は京と囁くと私の唇を奪った。ゆっくりと確かめるように食んだ。
激しく無いその行為が余計気持ちを高ぶらせた。
動悸が激しくなって、苦しくて、凄く切なくなった。
「拓…」
「京…愛しくて堪らない」
「拓…」
涙が流れ落ちた。
「京…頼みがあるんだ」
「はい?」
愛しげな目を向けてくれる。両手を取り包み込まれた。
「…会って、話をして欲しいんだ。吉澤さんと」
「…陽人とは…」
「京…心の中に持ち続けているモノ、話さないと駄目だよ?
終わりにしようと言われたままで、京はちゃんと終われてないだろ?
…高校生の時と同じようには終われない。
大人になって始めたモノは…言葉で…伝えておきたい事は言わないと駄目だ。
吉澤さんは誤解しているかもしれないよ?
吉澤さんに会って来なさい。
…これは課長命令だよ」
消化不良のままでは良くないんだ。会う事は京の為でもあるが、吉澤さんの為でもあるんだ。
きちんと自分の口から終わりにしておかなければ、この先、心が揺らいでしまうだろう。
このままでは心の中での存在の仕方が違う。
いつだって、吉澤さんが居ると、京は思って、思い続けてしまう。そんな、存在だ。
「課長…」