〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。


「いいよ、早く行きなよ。後少しだよね。
私がやっとくから。ね?」

「でも...。いいの?麻美」

「うん。私は...ほら」

目線の先を点々と追うと課長の席。

なるほど。

「帰る頃、タイミングをはかって一緒になったらラッキーだもん。
だから気にしないで。
私には私の目的があるのよ」

パチッとチャーミングなウィンクを頂いた。

麻美は本当に可愛らしい。性格も、見た目も、仕草も。
自分をよく解っている。自己主張もちゃんとする。

「ありがとう、ごめんね。
お言葉に甘えさせて頂いて帰るね。
あと、ここだけだから、お願いします。
この穴埋めは...」

「コンビニスイーツでね」

そう、麻美はコンビニをこよなく愛しているのだ。
もう一度ウィンクを頂いた。

じゃあ、ごめんねと、社内用のバッグを手にして課長に声を掛ける。


「課長、お先に失礼します」

「ん、お疲れ。
と、言いたいところだが、...俺が受け取るべき書類はどこかな?」

書類に目を通しながら、そんな言われて当たり前の言葉が返って来た。

左手が受け取る体勢になっている。

ゔっ。...当然そう来ますよね。

「...高遠さんが後を引き取ってくれて...。
今すぐ仕上がるはずです...。すぐ出来ます...」

私は振り返って麻美に頷いた。麻美も頷く。

「何?良く聞こえなかった」

う、課長〜。
デスクに少し近づいた。

「まあ、いい。用が出来たのなら仕方ない。
お疲れ」

ボストン眼鏡のフレームを下から軽く押し上げながら囁いた。

「...Sっぽそうだしな」

「へ?えっ?」

「遅れてお仕置きが倍増したらツライだろうからな」

顔を上げながらニヤッと微笑まれてしまった。

ゔ。何...。
声に出してメールしたつもりは無いのに。
うっかり電話に出たからかな。
人も少ないから静かだったし。
思った以上に通話の声が洩れ聞こえたのかも知れない。

「フッ。百面相してる暇は無いんじゃないのか?
...いいから上がれ」

あっ。そうだ、急がなきゃ麻美がしてくれる意味が無くなる。

「はい、すみません。それではお疲れ様でした。
お先に失礼します」

「ああ、お疲れ様」

フッとまた笑われてしまった。
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