〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。
ただ、京の友達に映る俺は、優しい男だったようだ。
会える時は少なかったと思う。
だけどその分、妙に密だった気がする。
傘をさして京の家の手前まで何度も何度も歩いて一緒に帰った。
初めは二つだった傘も一つになった。
京が自分の傘を畳んで俺の中に入って来るようになったからだ。
たまに京も俺の家の手前まで来た。行きたいと言ったから。その気持ちは解った。
俺ばかりに無理をさせてると思ったんだ。
俺の家の方に来ると帰りは京が一人になってしまう。距離も長くなる。
帰りが心配だから、あまり俺の方には来させなかった。
気持ちだけで充分だった。
10分ある休憩時間、京は約束通り覗きに来た。
初めは恥ずかしそうに、遠慮気味に。顔を覗かせて、中々呼べずにいたっけ…。
いつも廊下に出て窓際に行き、チャイムが鳴るまで話した。
その内誰かが、彼女来てるぞって、教えてくれるようになった。
クラスは一度も同じになる事はなかった。
時間割が違ったから、教室の移動で会えない時も多かった。
会えてる時間は大事にしよう。二人とも自然にそう思っていた。
俺達は卒業までキス止まりだった。
それ以上無くて良かった。これは俺の思いだから、京はどう思っていたのかは…解らない。
周りのやつらは彼女が出来たら、したのしないだのと、そんな話をする。
まあ、そんなもんだろう。
興味があり過ぎるくらいある年齢だから。
…したら思いが残ると思った。求める気持ちが強くなり過ぎてしまうだろう。
京が言うような別れが現実になるなら、何も無い方がいいと思った。その方が、別れる、と言い易いだろうし…。
京の初めては誰となんだろうと思った。
正直、誰でも嫌だと思った。そんなの思ってもどうしようも無い話だけど。
大学に行ったら大学の奴とするのか…社会に出るまで無ければ、社会に出たら同僚か、上司か…それとも合コンで知り合った奴と簡単にか…。
誰か知らないが、付き合った奴としてしまうんだと、思いたくも無い事が頭を過ぎった。
卒業式の日、京は3年間ありがとうと言った。
別々の大学だねと言った。
…そして、終わりだね、と言った。
人の気も知らないで、突然現れ、付き合って欲しいと言い、最初の言葉を裏切る事無く、一人で決めて、決まり事のように終わりだと言った。
本当に割り切れているのか、それさえ測らせてくれなかった。
颯爽とした別れだった。
そんな京が付き合って欲しいと言ってきた。
誰だって思うだろう。
なんで今更、って。
そして俺は驚いた。
京の初めては、どこかの誰でも無かった。
俺だった。