〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。

・聞けば壊してしまうのか


京が初めてだと知って、俺は無理をさせないよう、時間をかけ大事に優しく抱いた。
初めてだけど京の心は大人。
事の最中、京は涙を流した。俺にしがみついた。

痛みか…それもあるだろう、…どんな感情か、その涙の本当の意味が知りたかった。
今聞くのは野暮というものか…。

「…京、大丈夫か?…怖かったか?
…俺とはこんな仲になりたくなかったんじゃないのか?」

酷い事を聞いたのかも知れない。京の心が解りきってない俺は、俺と付き合いたいと言った京が、ここまでは求めて無いんじゃないかと思った。
昔を知る俺だから、寂しさを埋められるくらいの付き合い、ご飯や買い物に付き合う、そんな関係だけを求めていたのかも知れないと思った。
決して無理にした訳じゃなかったけど。
流れのまま京は同意した。…でも。

不安で落ち着かない俺はただ問い続けた。

「京、初めてが俺なんて、後悔したんじゃないか?」

何か言ってくれ。
目尻の涙に触れた。

「…嫌じゃない。後悔なんてしてない。
…痛いのは…痛かった。
でも陽人、優しくしてくれたから怖くなかった。本当よ?
陽人で良かったと思ってる。そう思ったら自然に涙が出たの。痛みの涙じゃない。
陽人…ありがとう。充たされた涙だよ?」

俺は勝手だと思う。勝手に思ってしまった。
気持ちにブランクなんて無かったと。
ずっとどこかで繋がったままだったんだと思った。忘れ去ることはできなかったんだ。

ぶっきらぼうに京を抱きしめた。
まるで高校生の俺が初めて京を抱くように。
力一杯抱きしめた。

「京、俺は…今でも京が好きだと思う。上手く言えないけど、昔からずっと思い続けていたんだと思う。
終わらせてなんか無かったんだと思う。
凄く愛おしい。今の、もどかしいような苦しいような気持ち、上手く伝わるかな…」

「…うん」

京はそれだけ言った。
言って俺の胸に、顔を、身体を寄せた。
抱きしめ合ったんだ。
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