〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。

「それが、全然気が付いてくれないんだ」

「は、あ」

誰が何に?

「…フ。碧井、碧井がだよ。全然気付いてくれないのは碧井の事だ。
俺が、碧井を好きだと言っているんだ」

「は、い...」

アオイオスキ?…?…。ロシア語?…植物の名前?

課長は膝に腕をつき前屈みになった。
少し顔が接近した。

「碧井?…京?」

「澤村さん?」

いけない。つい昔のくせで呼んじゃった。だって…京って急に呼ぶから。

「伝わらなかったか?
いいか?よく聞いてくれよ。
俺は、あ、お、い、きょ、う、が、す、き、だ」

「はい。青い今日が好きだ、です」

「…?」

「…」

…何故こんなに鈍い…。ここ迄鈍いと本当はわざとしてんじゃないのかって…疑いたくなるよ。
違うんだよな。仕事は鈍くないのに日常の事は何故こんなに鈍感なんだ。
こと、恋愛というか、人の好意に関しては察知するアンテナは皆無だな。…はぁ。

今まで言葉にしなかった俺が悪いとはいえ、解るように接してきたつもりだったのにな。
京のこの性格が解るまで、俺には全く気が無いものだと…諦めようとしたものだ。

探るような事をしても無駄だと思った。…伝わらないんだから。
おそらく、相手が誰でも同じ事だろう。

「京…」

もう仕方ない。
抱きしめた。

「好きだと言ってるんだ、京の事を。
これで解ったか?
もう、いい加減伝わったか?」

拘束された京は、まるで人形だ。腕の中で固まっていた。

「課長…これは夢でしょうか。
私はやはり初めから熱があるのでしょうか…」


「…はぁ。本当に熱があるかどうかは俺は知らない。…無いと思うぞ。
夢ではない。これは現実だ」
< 37 / 175 >

この作品をシェア

pagetop