〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。
「それが、全然気が付いてくれないんだ」
「は、あ」
誰が何に?
「…フ。碧井、碧井がだよ。全然気付いてくれないのは碧井の事だ。
俺が、碧井を好きだと言っているんだ」
「は、い...」
アオイオスキ?…?…。ロシア語?…植物の名前?
課長は膝に腕をつき前屈みになった。
少し顔が接近した。
「碧井?…京?」
「澤村さん?」
いけない。つい昔のくせで呼んじゃった。だって…京って急に呼ぶから。
「伝わらなかったか?
いいか?よく聞いてくれよ。
俺は、あ、お、い、きょ、う、が、す、き、だ」
「はい。青い今日が好きだ、です」
「…?」
「…」
…何故こんなに鈍い…。ここ迄鈍いと本当はわざとしてんじゃないのかって…疑いたくなるよ。
違うんだよな。仕事は鈍くないのに日常の事は何故こんなに鈍感なんだ。
こと、恋愛というか、人の好意に関しては察知するアンテナは皆無だな。…はぁ。
今まで言葉にしなかった俺が悪いとはいえ、解るように接してきたつもりだったのにな。
京のこの性格が解るまで、俺には全く気が無いものだと…諦めようとしたものだ。
探るような事をしても無駄だと思った。…伝わらないんだから。
おそらく、相手が誰でも同じ事だろう。
「京…」
もう仕方ない。
抱きしめた。
「好きだと言ってるんだ、京の事を。
これで解ったか?
もう、いい加減伝わったか?」
拘束された京は、まるで人形だ。腕の中で固まっていた。
「課長…これは夢でしょうか。
私はやはり初めから熱があるのでしょうか…」
「…はぁ。本当に熱があるかどうかは俺は知らない。…無いと思うぞ。
夢ではない。これは現実だ」