〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。
「とんでもない。
私の方こそ、課長の入れてくれた貴重なコーヒーを頂きました。
ありがとうございました」
課長はどんな気持ちでいるんだろう。
言われた方の気持ちは考えないものだろうか。
今朝の感じだと今までと何も変わらない。
あ、コーヒー入れてくれたけど、それはお詫びのつもりよね。
仕事は仕事だから、初めからお詫びなんて無くていいんだけど。
どんな事情でも仕事に変わりはないから。
もうそろそろ麻美も来る頃かな。
課長の入れたコーヒーだって言ったら、コンビニスイーツばりに欲しがるかも知れないな。
…だけどこれは、今回に限り私の仕事の対価のようなモノ。
これは私が頂きます。
「碧井…」
丁度課長がデスクから声を掛けた時だ。
「おはようございます。
おはよう、京。今日も、…今朝も早いね」
麻美が来た。
課長の言葉の続きは消された。話は途切れてしまった。
「おはよう麻美」
「何?早くもコーヒーブレイク?早くない?
一仕事したの?」
どうしよう。
コーヒー飲んでるのが珍しい事は、自分でも自覚している。
「んー。朝ご飯変わり。今朝、食べる時間無かったから」
課長が僅かに頭を浮かした。
「へぇ、珍しい。京がご飯食べないなんて。解ったぁ…疲れたんだ、食欲よりフフ、勝ったんだね」
ツンツン脇腹を突かれた。
「ナハハ。…なんとでも言って」
違うけど、これでいい。サラっと流しておけばこんなもんだ。
なんだかこの時、スラスラと嘘が口をついて出た。
何を隠したつもりも無かった。
仕事の事も、コーヒーの事も。
お陰でコーヒーを奪われる事も無かった。