〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。
お昼休憩。
私の方が少し後になった。
社食に麻美の姿はもう無かった。
トレーに今日の定食をのせ、端っこの席に腰掛けた。
…なんだか味気ないな。
壁に向かって食べるのは久し振りな気がする。
黙々と食べ進めると早く終わってしまうものだ。
だから、男の人のご飯は早いのか。無駄話なんてあんまりしないだろうし。
食後に杏仁豆腐を食べ、返却して片付けた。
社内バッグを手に、改めて化粧室へ向かう途中。
通り過ぎる会議室のドアがほんの少し開いていた。
途切れ途切れに聞こえてきた。少しだけ…聞き取れた。
「…好きな…。だから……」
声の主は…麻美?うん、間違いないと思う。
独り言ではない。
会話をしているようだから、相手が居るはずだ。
どうしよう。このまま通り過ぎた方がいいに決まってる。
足を止めてしまったら立ち聞き…盗み聞きした事になる。
よし、往き過ぎよう。
「…碧井の事は…」
あ、この声の主も知ってる。…課長だ。
麻美と課長。
私の名前が課長の口から出るなんて。
何を話しているの?
麻美の会話、好きという単語…。
行ってしまおう。
気が付けば、歩みは自然と遅くなっていたから。
走った。小走りに駆け抜けた。
早くこの場から居なくなりたかったから。
会議室から先に出て来た課長に、後ろ姿を見られていた事は気付きもしなかった。