〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。

化粧室に飛び込んだ。

何を焦っているんだろう。
あまりの勢いの良さに、先客の女子社員達は一斉に振り向いた。

ごめんなさい。頭を下げながら小さく謝った。…視線が痛い。

何事も無かったように各々が取り出した道具でお直しを始めた。
時間がギリギリになったから、急いで走り込んで来たと思ったのだろう。
口々に愚痴タイムも始まった。

はぁ。
鏡に映る顔を見ながら…あれはなんの会話だったんだろうと考えた。

麻美は課長に気持ちを打ち明けたりしないだろう。
やはり話題は、私かな…。名前が出てた。

何も知らない振りをしよう。それが一番いい。
例え、私が通り過ぎた事を見られていたとしても、通り過ぎただけだ。

なにも知らない。何も聞こえてない。それでいい。
鈍感で居るのが一番いい。

歯磨きしよう。
長くぼーっとしていたつもりは無かったけど、気が付けばもう誰も居なかった。

はぁ。口から出て無かったよね?心のつぶやき…。
ぼーっとしてると自覚しようが無いから怖い。

はぁ。
そもそも、朝、課長が名前を呼んで話し掛けたままになってるっていうのも、なんだか気になっていた。

関わってるのかな、その言葉も。
碧井、と呼んだ課長の声は麻美に聞こえていただろう。

朝、フロアには課長と私の二人だけだった。

麻美…何かと詮索はしたに違いない。
コーヒーまで飲んでたし。
< 65 / 175 >

この作品をシェア

pagetop