〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。
車に乗り込み、発進してから暫く沈黙が続いた。
珍しい。
課長は何かしらいつも話をするのに。
赤信号で停まった。
「京」
「はい」
何だか真剣な声音に少し背筋をピンとした。
「籍、入れないか?」
「…ぇ、え」
右手を握られた。
車が動き出した。
「京、仕事面白くなって来たか?」
「え、あ、はい」
厳しさに直面する事ばかりだが、日々、刺激がある事は、仕事をしているという気持ちになる。それが楽しい。
「あの…」
「そうか。何も変えなくていいんだ。今のままで」
どういう事だろう。
「あの…課長?」
それより何より、これはプロポーズなんだろうか?
「同じ部屋で暮らさない。京は今と変わらず仕事をする。
ご飯だとか洗濯だとか掃除、そういった事、家事をしないといけないと思わなくていい。
俺は俺で今と変わらない生活をする。
お互いが今を壊さないまま、籍を入れる。
そんなのはどうだろう、駄目か?」
「あの」
暫く信号に掛かる事もなくスイスイ走っていた車が、赤信号で停まった。
「勿論、京が仕事を辞めたくなったら辞めて、したい事があるならしたらいいし、家庭に入るのがいいと思ったら、家で奥さんになってくれてもいい。
それは過ごしていく成り行きで変化していいと思うんだ」