あやめも知らず
この世界に来て4日目、今日はいつもと違うことが起きた。
それは、私にキスをした少年が部屋にやってきたことだった。
ノックもせずに、ズカズカと入り込んだと思えば椅子に腰かけた。
「お前はアヤメって言うんだってな。────って、来て間もないから俺の言葉も分からないか。」
本当は、この程度の話は聞き取ることが出来るようになっていた。
けれど、敢えて黙っていた。
私と会話したいというよりも、ただ呟いている様子であった。
なんだかここで安易に「分かりますよ。」というべきではないと思った。