『美味しい』は『可愛い』より正義な件について
「今日、何で帰り遅かったの?」

食器を洗いながら健吾に尋ねる。

「ん?ああ。…数学準備室行ってた。」

そっか、また先生のところか。

そう言うと健吾は数学のノートと教科書を取り出して机に広げている。

洗い物を終えた私は、淹れたてのコーヒーを持って健吾の向かいに座った。

「やるぞ」

「はい!先生」

黙々と課題に取り組んでいると、健吾が視線を課題から私に移す。

「なあ、……次はさ、鶏肉のカレー作ってくれよ。」

「ん、いいよ。……でも、豚肉も美味しかったね。なんか、“次はもっとこうやって作ってみよう”ってポイントがいっぱいあって、楽しかった。」

ニッコリ笑ってそう言うと、健吾が溜息をついた。

「そういう探求心を、もっと数学に活かせないのかね。そこ、また間違ってるぞ。」

わわ、本当だ。私はガックリと肩を落とした。

(なんかもう、自分が自分で情けないわ。)
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