神木の下で会いましょう
「春香はもう進んでる。一人でも大丈夫」


春は私を元気にさせるのが上手だね。

裾から手を離して真っ直ぐ春の目を見る。


「ありがとう」


感謝しても仕切れないな。

春の存在は大き過ぎる。

もし、もしも春が居なくなったりしたら……考えるだけで怖い。


「一緒に写真撮ろうか。寂しくないようにさ」


唐突に笑って言う春。


「ありがとうって言う割にはずっと泣きそうな顔してるじゃん。だから一緒に写真撮ろう? 形に残せば寂しくないだろ」


曖昧に笑うしかなかった。

なんでもお見通しなんだね。


「馬鹿。俺が気付かないと思うなよ。おい、梗!」


グシャっと私の髪をひと撫でして、春は家の二階に向かって叫んだ。

ちょっとだけ怒ってる。


「なに?」


二階の窓から顔を覗かせたのは春の弟で梗[こう]。


「ちょっと下来て」

「分かった」


兄弟の会話を聞き流し、沈み込んだ心を浮上させようと必死になる。

こんな弱い心は春以外に見せる自信がない。

それは昴にも、春の弟やおじいちゃんとおばあちゃんにさえ。


「で、なに?」


なんとか平常心を保てるようになった頃、マスク姿の梗が縁側に姿を現した。


「写真撮って」

「は?」

「だから写真撮れって言ってんの」

「俺、花粉症なんだけど」


そう言えば梗は花粉症だったっけ。

兄の命令に心底嫌そうな表情をする、春に似た顔立ちにアッシュブラウンの髪を靡かせる弟の梗。

春より優しい雰囲気を纏っていて、男女問わず人気者。


「ちょっとぐらい平気だろ」

「兄貴は分かってないね。その油断が駄目なんだよ」

はあと大きな溜め息を吐く梗だけど、お兄さん思いで優しいから、手にはしっかりと春に渡された携帯を持っている。
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