神木の下で会いましょう
今更後悔しても遅くて、襲って来る衝撃に怖くなって目をぎゅっとつぶった。

山道だし痛いだろうな、なんて考える私に襲って来た感覚は痛くも固くもなくて。

ちょっとあったかい。

恐る恐る目を開けてみると、そこは昴の腕の中。


「ちゃんと前見て歩いてって言ったよね」


若干怒り気味の昴から慌てて距離を置く。


「全くしっかりしてよ」


呆れ気味に歩き出す昴の少し後ろを追い掛けながら「ありがとう」と小さく呟いた。

隣を並んで歩くのはなんか恥ずかしかったから。

昴も男の子なんだって実感してしまった。

それと共に、一瞬だけ昴の腕の中にいた自分に罪悪感を感じる。

いくら私の不注意だとしても、彼女であるめぐちゃんに申し訳ない。

中学から今年で6年を迎える昴との関係を見直した方がいいのかな。

なんか昴が遠い存在になっちゃった感じだよ。

友達と言えど男の子で彼女持ち。

今までみたいに簡単に抱きついたりからかったりしないように気をつけなきゃね。


「春香、聞いてる?」


低い声が聞こえてきて、入り込んでしまった自分の世界から現実に戻る。


「聞いてたよ、うん」


ほんとは全然聞いてなかったけど。

昴怖いんだもん。


「嘘つけ。なんなの? さっきからぼーっとしてさ」

「なんでもない」


ちょっと考え事が多いだけ。

でもぼーっとするのは止めよう。

また転びそうになったら大変だし。
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