神木の下で会いましょう
「すば、秋川君」

「は?」

「あのね秋川君」

「春が近くにいなくて頭可笑しくなった?」

「え? 普通だけど」


昴の眉間に皺が寄る。

うわ、そんなに秋川君呼びが気に入らなかったのかな。


「あ、秋川君」

「なに?」

「え、いや、なんでもないです……」


怖い。

怒ってるというか不機嫌というか……今の昴には話し掛けないようにしよう。


「春香」

「……はい」

「なに考えてるか分かんないけど、僕はそういうの嫌いだから」


そう冷たい声で言った後、昴は一言も話さなかった。

嫌いの意味を考えて、何回も昴を見たけど一度も目は合わない。

何か話そうと口を開いてみたけれど、何を話していいか分からなかった。

これは喧嘩っていうのだろうか。

手始めにした名字呼びが原因?

そんなに不満だったのかな。

考えても分からない。

むしろ、考えれば考えるほど分からなかった。

合宿所へ着いてから、生徒会長である昴は忙しそうに動き回っていた。

その間、さっきまでの雰囲気が嘘のようにいつも通り。

ううん、いつも通りに見えた。

きっと気付いてる人なんて私と春と梗くらいだと思う。

少しだけ寄った眉間の皺とか、ちょっとだけ尖った言動とか。

怒ってる。

昴は怒ってるんだ。

私が悪いんだろうけど、明確な理由が分からないから簡単には謝れない。

昴は原因の先にある理由に怒ってるはずだから。

だから直ぐには謝れない。

楽しみにしていた合宿は心にぽっかり空いた穴と共に始まった。

あんなに楽しみだった昼食も味がしなかった。
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