神木の下で会いましょう
3泊4日の合宿は、1年生~3年生まで合同で行う勉強会みたいなもの。

3年生が1、2年生に勉強を教えるのが伝統となっていて、私のクラス3組は二手に分かれて1、2年の3組に勉強を教える。

私は2年生担当。

そして教える相手は、


「まずさ、分からない教科あるの?」


机に頬杖をつくアッシュブラウンの男の子。


「俺にだって苦手な分野くらいあるよ」


春の弟で2年3組ーー梗だった。


「本当に? 梗は頭良いからそんな風には見えないけど」

「文系は苦手だよ。古典とか特にね」


肩を竦める梗。

ちょっと意外だった。

梗は校内順位で毎回10位以内に入るくらい頭が良い。

苦手な教科なんてないと思ってた。


「春ちゃん文系得意でしょ? だから教えて。んで、集中したいから俺だけに教えて」

「流石に梗だけっていうのは……」

「昴君には許可取ってあるからさ。ね、春ちゃんお願い」


昴、許可したんだ。

手を合わせてお願いする姿に少しだけ切なさが滲んだ。


「分かった」


そう言うと梗は顔を綻ばせる。

まるで犬みたい。

その柔らかい笑みの後方に見えたのは親友の後ろ姿。

5人相手に勉強を教える姿はなんだか遠くに感じた。


「どこからやる?」


古典の教科書を手に取ってパラパラと捲る。


「まずは一学期にやったところの復習から始めようかな」

「うん、じゃあここからね。それが終わったら次の範囲の予習しよ」


勉強モードに入る梗に続いて去年習った範囲を思い出す。

文系が得意な私はその中でも一番古典が大得意。

情緒溢れる昔の言葉が好き。

意味を調べているうちに自然と得意になった。

高二の始まりの内容は久しぶりだ。

1年前の内容ちゃんと覚えてるかな。

人に教えることによって、自分の復習にもなるから、誰かに教えるって意外と難しかったり。

そう、伝えるって難しい。
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