神木の下で会いましょう
桜の木の下で
時は四月。

桜が舞い散る季節。


「はーる! 遅刻するから早く!!」


鳥居の前で後ろを振り返りながら言う。


「ちょっ待てよ! まだ靴履いてねえよ」


お揃いのダークブラウンの髪を靡[なび]かせて呆れたように言うのは幼馴染みの神木春[かみきはる]。


「早く!新学期初日から遅刻とかシャレになんないから」


暢気に鼻歌なんか口遊[くちずさ]んじゃって。

慌てているのは私だけ。

これも寝坊なんてする春の所為。


「チャリ乗る?」

「乗る! 間に合わない」


携帯のディスプレイを見て急いで階段を駆け降りる。

神社の階段はこの時ばかりは好きじゃない。

これも春の所為だけど。

私の方が先に降り始めたのに、途中で春に抜かされちゃうし。


「春香」


私が降りきった頃にはちゃっかり自転車に跨[またが]って待っててくれる。

こっちは息が乱れてるってのに春は涼しい顔。

男女の差を少しばかり恨む。

荷台に乗って春にしがみつけば、ゆっくりと景色が流れ始める。


「スピード出していい?」

「いいよ」


徐々に上がるスピード。

腰に回した腕をぎゅっと掴む。

本当は2ケツなんて違反だけど今だけは許してね、お巡りさん。

春と一緒に感じる疾走感が好きだから。
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