パドックで会いましょう
コンプレックスの塊
メインレースの桜花賞。
たくさんの人の熱気に埋め尽くされ、スタンドを揺らすような大歓声が上がった。
その迫力に圧倒され、僕はゴール前で立ちすくんだ。
桜花賞は、3つある3歳牝馬限定レースの、最初のひとつらしい。
3歳馬限定のG1レースをクラシックレースと言って、桜花賞の他にも皐月賞、東京優駿(ダービー)、菊花賞、牝馬限定の優駿牝馬(オークス)、秋華賞の6つがあるそうだ。
皐月賞、ダービー、菊花賞は基本的に3歳牡馬のレースだけど、牡馬限定というわけでもなく、トライアルレースを勝ち上がり出走権を得る事ができれば、牝馬もレースに出走するのは可能らしい。
3歳馬は人間に例えると高校生くらいの若駒で、ダービーなんてのは高校球児の夏の甲子園みたいなものだとねえさんは言っていた。
馬にとっては、まさに青春時代の、一生に一度の特別なレース。
もちろん馬にとってだけでなく、関係者にとっても、他のG1レース以上の特別な思い入れがあるらしい。
「初めての競馬観戦で、目の前でG1観れるなんてラッキーやで。よう観とき。」
これから始まる桜花賞への期待で上気したねえさんの頬が、桜色に染まっている。
風に煽られたねえさんの髪が、隣にいる僕の頬を撫でた。
またあの香りがふわりと漂う。
ホントにいい香りだ。