パドックで会いましょう
僕はジンジン痛む頭をさする。


あんないい思いさせてもらった事を考えたら、これくらいの痛さ、どうって事ないです!!


…とは、口が裂けても言えない。

肝心のゴールを見逃してしまったけれど、まあいいか。

先輩の予想は見事に外れたらしい。



結局僕は、最終レースまで一度も自分の馬券を買う事もなく、ねえさんについてただひたすら競馬観戦を楽しんだ。

初めて観たけど、競馬って意外と楽しいかも。

それはやっぱり、ねえさんと一緒だったからなのかも知れない。



最終レースが終わると、おじさんが僕とねえさんを競馬場近くの小さな居酒屋に連れていってくれた。

その店は、おばあさんと呼ぶにはまだ少し若い女将さんが一人で切り盛りしている。

友人や先輩たちと行くようなチェーン店の居酒屋とは違う、温かみのある店だった。


「おねーちゃん、好きなもん頼めよ!」

「ほんならビールとモツ煮込みと揚げ出し豆腐ちょうだい!」

「アンチャンも遠慮すんな。何飲むんや?」

「それじゃ、僕もビールいただきます。」

おじさんはビールと、料理をいくつか適当に注文した。

「競馬の後、よく二人で一緒に飲みに来たりするんですか?」

「たまにな。おねーちゃんのおかげで大穴当てた時は、こうやってお礼するんや。」

おじさんはねえさんと僕、それから自分のグラスにビールを注いだ。

「ほな、お疲れさん。かんぱーい!」

「かんぱーい!!」

「乾杯!いただきます!」

三人で乾杯して、ビールを飲んだ。

普段はあまり飲まないけれど、今日のビールはなんだか美味しい。


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