パドックで会いましょう
それからしばらくの間、女将さんの美味しい料理をつつきながらビールを飲んだ。

ねえさんとおじさんは、今日のレースを振り返って随分盛り上がっていた。


興味深かったのは、僕が思っていた関西と、実際の関西が違う事だ。

ねえさんは自分の事を“アタシ”と呼ぶ。

関西の女性はみんな、自分の事を“ウチ”と呼ぶものかと思っていたけれど、実際は違うようだ。

「アタシのまわりで、自分の事“ウチ”なんて言う子、あんまりいてへん。」

「そうなんですか?僕、ほとんどの女性がそう呼ぶんだと思ってました。」

「アンチャン、テレビか漫画かなんかの見すぎちゃうか?関西言うても広いんやで。関西イコール大阪とちゃうしな。兵庫かって広いんやから、ここらへんと神戸は全然ちゃうし、県の北部なんかまったくちゃうからな。」

ねえさんは笑いながらタバコに火をつけた。

「そう言えば、ワイとか、おおきにとか、でんがなとかまんがなとか、言いませんね。」

「言わんな。それ、ベタな大阪やろ。」


土地が違えば、言葉も料理の味付けも違う。

女将さんの料理は出汁をきかせた優しい味で、素材の味が生きていて、とても美味しかった。


三時間ほど経って店を出た。

おじさんはすぐ近所に住んでいるらしく、店の前で別れた。

「アンチャン、電車か?」

「はい、電車です。」

「ほな、駅まで一緒に行こか。」



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