パドックで会いましょう
ねえさんと並んで駅まで歩いた。

ほろ酔い加減で頬を上気させて、ねえさんは鼻唄を歌いながら歩く。

「今日、楽しかった?」

「すごく楽しかったです。」

「そら良かった。今朝は柄の悪いやつに絡まれとったし、小鹿みたいにビクビクしてかわいそうやったもんなあ。」

小鹿みたいって…。

弱くて頼りなくて、みっともない所を見られたもんだと、今更ながら恥ずかしい。

「あれは怖かったですよ。でも、そのおかげでねえさんにもおじさんにも会えたし、いいかなって思います。」

「前向きやな。ええこっちゃ。」

ねえさんは笑いながら、僕の背中をバンバン叩いた。

「いつもそうやってな、背筋伸ばして顔上げとき。ちょっとは男前度が上がるわ。」

「男前度…ですか?」

「そう。少なくともな、下ばっかり向いてるよりは、ハッタリでもええから堂々としてる男の方が、アタシは好きやで。」

堂々としてる男の方が好き?

そんな事言われたら、単純な僕は少しでもねえさんに近付けるならと、反り返るほど背筋を伸ばして大股で歩いてしまいそうだ。

「ねえさんがそう言うなら、これからはそうしようかな。」

「そうしとき。」

「それで少しはモテるようになれば、言うことないんですけど。」

少し酔っているせいか、不意に本音がこぼれ落ちた。

ねえさんは笑う。

「なれるなれる。頑張ってアタシが惚れるくらいのええ男になりや。」

「どれくらい頑張ればなれるのかなあ…。」

思わず呟くと、ねえさんは笑いながら僕の頭をポンポン叩いた。

「そんな事言うてるようやとまだまだや。そんなん言うてるとこ見ると、アンチャンは恋愛の方もアンチャンやな?」

思わず立ち止まった。

確かに僕は恋愛した事も、女性経験もない。

ねえさんから見たら、僕なんてまるきり子供なんだろう。

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