パドックで会いましょう
ほんの少しの間だったけど、僕はどうしようもないくらいドキドキして、ねえさんを思いきり抱きしめたい衝動に駆られるのを、拳を強く握りしめて必死に抑えた。

あれはかなりヤバかった。

僕のなけなしの男の本能が、暴れだしてしまいそうだったから。

僕ってホントに、女の人に対して免疫がないって言うか。

こんなんでこの先、彼女なんてできるんだろうか。

今日初めて会った人がこんなにも気になるなんて、自分でもどうしてだろうと思う。

今日一日一緒にいたと言っても、競馬の事を教わったくらいで、それ以外たいした話はしていない。

そう言えば不思議な事に、ねえさんとおじさんは、居酒屋でも競馬の話と世間話くらいしかしなかった。

お互いの事はあまり話さないみたいだ。

それは僕に対しても同じで、どこの出身なのかとか、歳はいくつだとか、どんな仕事をしているのかとか、どこに住んでいるのかとか、そんな事はひとつも聞かなかった。

だから僕も聞かなかった。

今日一日一緒にいたからと言って、特に親しくなったわけでもない。

もしかしたら、二度と会わないかも知れない。

また会うかどうかもわからない相手には、深入りしないのかも。

それが暗黙のルールなのかな?


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