パドックで会いましょう
恋人ごっこ


あっという間に、また日曜の朝がやって来た。

僕は少しソワソワしながら、いつものように電車に揺られ、競馬場に向かった。

今日はねえさんに会えるかな。

おじさんの具合も気に掛かる。

こんなに暑いのに、たいした馬券も買わない僕が、開催日でもない競馬場にせっせと足を運ぶなんて、ホントにおかしな話だ。

そう言えばこの間、“最近付き合いが悪いな”って、先輩から言われたっけ。

先輩は合コンに来いとか、女の子のいるお店に行こうとか、何かにつけて僕を誘ってくれるけど、そんなものは今の僕にとって、なんの価値もない。

僕が心から会いたいと思う女性は、ねえさんだけだから。

しばらくねえさんに会っていない。

会いたい。

本当は日曜日だけじゃなく、毎日だって会いたいと思う。

競馬場でだけじゃなく、次に会う約束ができる関係になりたい。



それにしても暑い。

仁川の駅から競馬場に向かう途中の自販機で、ペットボトル入りのコーヒーとスポーツドリンクを買った。

一度競馬場に入ると、わざわざ飲み物を買いに建物の中に入るのが煩わしいので、先に用意しておく事をいつの間にか覚えた。

買った飲み物をバッグに入れて、競馬場を目指してまた歩き出した。



競馬場に着いた僕は、いつものように真っ先にパドックに向かった。

目を皿のようにして、ねえさんの姿を探す。

いつもの事ながら女性客の姿は少ない。

数少ない女性客の隣に背の高い男性の姿を見掛けるたびにドキッとしてしまう。


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