パドックで会いましょう
おじさんは最期にどうしても会いたくて、ねえさんの夢の中まで会いに行ったんだろう。

最期の時まで自分の正体を明かさなかったなんて、おじさんは人が好すぎるよ。

それだけねえさんを大事にしたかったんだな。


「なぁ、アンチャン…正直に言うて。もう会えんって、もしかしておっちゃん…。」

ねえさんは勘付いているみたいだ。

つらいけれど、隠すのはもうやめよう。


僕はゆっくりと口を開く。

「…先週、おじさんの知り合いが運営しているホスピスで…。」

「…おっちゃん…死んでもうたん…?」

僕が黙ってうなずくと、ねえさんは大粒の涙をこぼした。

「おっちゃん、アタシになんの断りもなく死ぬってどういうこっちゃ!散々儲けさせたったのに、挨拶もなしか!」

ねえさんは涙を拭って、無理して作り笑いを浮かべようとした。

その泣き笑いが痛々しくて、僕はねえさんを強く抱きしめた。

「ねえさん、無理して笑わなくていいんです。大事な人とのお別れの時はね…思いきり泣いていいんですよ…。」

ねえさんは僕の胸に顔をうずめて、子供のように声をあげて泣いた。

僕は涙を堪えて、ねえさんを抱きしめていた。



最終レースの払い戻しが終わってしばらく経った頃。

場内には僕たち以外の人の姿は、ほとんどなくなった。

涙の少し落ち着いたねえさんは、僕の肩にもたれ掛かって、涙で濡れたハンカチを握りしめていた。


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