パドックで会いましょう
「お別れもできんかった…。人間いつか死ぬんやから泣く事なんかないて思てたけど、なんでこんなに哀しいんやろ…。ここに来ても、もうおっちゃんに会われへんって思うと、やっぱり寂しいな…。」

「おじさんは最期までねえさんの心配してたんですよ。どうしても会いたくて、ねえさんの夢にまで会いに行っちゃったんですね…。おじさんらしいです。」

「パドックで待ってるでって言うたくせに、おっちゃん待ってへんやん…。待ってたんはアンチャンやんか…。」

ねえさんはそう言ってから、首をかしげた。

「今度こそ幸せになれよって、どういう意味やろ…?誰にも遠慮なんかせんでええとか…。なんか、前から知ってる人みたいな…。」

「さあ…どういう意味なんでしょうね…。」


僕にはおじさんがねえさんに伝えたかった気持ちが、痛いほどわかった。

おじさんはきっと、記憶をなくしてもいつもパドックで待っていたねえさんに、自分の正体を明かして“愛してる”と言えない代わりに、せめて遠い日に交わした“はぐれたらパドックで待ってる”という二人しか知らない約束の言葉を伝えたかったんだ。


「おじさんは優しいですね…。」

「ん?ようわからんけど…。アタシな、おっちゃんはアタシに、アンチャンに会いに行けって言うたんやと思う。」

「…どうしてですか?」

「ん…?うん…。アタシ、もうここには来んつもりやったって、言うたやん?」

「……そうですね…。」



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