パドックで会いましょう
ねえさんはゆっくりと立ち上がった。

「そろそろ出よか。ちゃんと話すからさ…。」

僕が立ち上がると、ねえさんは右手を差し出した。

「歩きながら話すから、手ぇ繋いでくれる?」

「あ…はい…。」

僕は差し出されたねえさんの手をそっと握ってゆっくりと歩き出した。

「あのさ…アタシな…あの時の事、後悔しててん。」

後悔してたと言う事は、もうこれきりにしようって言うつもりなのかな?

変な汗が僕の背中を伝って行く。

「アンチャンの気持ちわかってたくせに、アタシはそれ無視して、今だけって言うたやん?」

「……わかってたんですか…。」

「うん…。ホンマはアタシになんもせんとこうって、思ってくれてたんやろ?」

「まぁ…。」

僕の気持ちって…そっち?

確かにそれも嘘じゃないけど…なんか話がずれてないか?

「アタシはいろいろ複雑やからさ…アンチャンには荷が重すぎるやろうなぁって思って。だから本気にならんように、今だけって言うた。」

ちょっと待って…えーと…?

あれは僕がねえさんに本気にならないように、今だけって言ったんじゃなかったの?

「朝になってシラフに戻ったら、なんでこんな事したんやろってドッと後悔してな…。アンチャン優しいから、酔った勢いでしてもうたけど男やから責任取らなー!って、なるんちゃうかなと思てさ…。もう顔も見れんで、アンチャン寝てる間に、黙って帰った。」


あれ?


なんか僕が思ってたのと違うんだけど…。



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