パドックで会いましょう
「それで競馬場にも来なかったんですか?」

「それもあるけど…。」

ねえさんは言いづらそうに口ごもる。

「なんですか?ちゃんと話して下さい。」

僕は立ち止まり、ねえさんの顔を正面から見つめて、両手を握りしめた。

「……あんな…、ホンマは、自分でなんとかしようと思ったんよ。」

「…何をです?」

「アタシが無理やりしたようなもんやのに、まだ若いアンチャンには背負わされへんって。」

「だから、何を?」

ねえさんは僕の視線から逃れるように、少し目をそらした。

「……でも一人ではしんどいから、一度はあきらめようとしたんやけど…直前になってやっぱり無理やって、結局でけんかった…。」

ねえさんはさっきから、一体なんの話をしているんだろう?

なんの事だかさっぱりわからない。

「だから…何をですか?僕、さっぱりわからないんですけど…。」

「やっぱりあきらめられへんから、アンチャンには頼らんと、なんとか無理してでも一人で頑張ろうって思ってたらな…おっちゃんが夢に出てきた。」

「それ、さっきの夢の話ですか?」

「うん…。おっちゃんが、幸せになれよ、パドックで待ってるでって言うたから、なんか絶対行かなあかんような気がして、思いきって来たんやけど…おっちゃんやなくて、アンチャンが待ってた。」



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