可愛い弟の為に
「至さんはやっぱりブラコンだわ」

帰りの車内で桃ちゃんは嬉しそうに言う。

「あ、そう」

わざと冷たく言った。
きっと桃ちゃんの頭の中は妄想だらけだ。

「だからいいのよ~」

鼻歌まで歌ってる。
そしてスマホを取り出して何やら打っている。

「…何してるの?」

「色々と報告」

「どこへ?」

「FBとツイッターと裏サイト」

前の二つは良いとして。

「…何なの、裏サイトって」

「透さんが運営している超限定某サイト」

…はあ?

「何してるの、貴方たち」

「ネット活動」

だから桃ちゃんは平気で透をヲタクだと言ったりしているのか。

「透さんはあくまでサイトを運営しているだけ。
そこに参加するアプリも一瞬で作っちゃた。
彼の頭じゃ、そんな事、余裕だもの。
しかもごく限られた人しか参加できない」

と言って桃ちゃんは首を横に振った。

「いや、違うな。
透さんが許可した人間しか参加出来ないの。
確か、紺野の先生も何人かいたよ。本名知らないからわからないけど」

誰だよ、おい。

「至さん、今から言うこと、絶対に誰にも言っちゃだめだよ」

「言いませんよ、何も。言う人もいません」

桃ちゃんは頷いて

「私のネットでの情報網の大半はそこから。
医者はもちろん、弁護士もいるし、会計士もいるし、探偵もいるし、社長とかももう本当に色々。
それはね、殆ど透さんの知り合い、しかもネット上じゃないリアルな友達。
ほぼ大学で知り合った人みたいだけど。
そういう人が信頼できる人を呼んでもう今では会員数2000弱。
前に使った情報も透さんのお兄さんの為って言ったら、即、集めてくれたの」

…もうね、兄さんとしての想像を超えてしまったよ、透。
人脈は確かにあるなとは思っていたけどね。
想像以上だ。

「皆、透さんのお兄さんっていうだけで見たことのない至さんを勝手に想像して面白いのってなんのって!!」

桃ちゃん。手を叩いて笑う所か、そこ。

「…でもね、見たことのない至さんは愛されているよ。
透さんの事を真剣に考えてるお兄さんをね。
病院での根回し、全部知ってる。
紺野の先生らしき人が感心してたから」

…まさか、江坂先生か?
江坂先生は忙しいからまずないか。
あ、黒谷先生か神宮寺先生か。

「透さんはね、ネットでもすごく尊敬されている。
まあ、繋がっているのがリアルの人がほとんどだから当然かもしれないけれど。
でもね、作った当の本人、殆ど参加しない。
そりゃあんなに忙しかったら無理だわ」

桃ちゃんはスマホをいじる手を止めた。

「透さんの周りの人たちが勝手にそこに居場所を作って遊んでいるだけ。
絶対に世間では吐けない愚痴を吐いたりしているの。
みんな、表面上は立派な肩書を持つ人が多い。でも内面は…苦しんで叫んでいる人が多いのよ」

なるほど、透らしいな。
知り合いの人たちのはけ口をネットにねえ。

「おおっ、みんな喜んでいる。
お兄さんにも幸あれ、だってさ」

桃ちゃんはスマホの画面を見て喜んでいた。
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