可愛い弟の為に
11月下旬の日曜日。
僕は実家に向かう。
でも、その目的は2階。
透の家だ。

「おはよう」

「兄さん、いらっしゃい」

病院では中々時間がないからな。
透も何か感じていたのか、アポイントを取った時にすんなりと応じた。

「あれ、片付けた?」

すっかり家の中は綺麗になっていた。
引っ越した直後にハルちゃんが入院したので、まだ片付けてないと思ったのに。

「うん、ハルがいないと夜とか案外暇なので」

…夜、ね。
切迫になったのはひょっとして透の責任かもしれない。

透は僕好みの珈琲を出してくれた。
透自身は紅茶。

「…で、話って?」

口元に少しだけ笑みを浮かべた透。

…わかっているな、何を言うのか。

「やっぱり夕診、見つからなかった」

「そんなパートの部分はね。
常勤は?」

「面接はしたけど、知識も経験も少なすぎて駄目」

どうしても比較の対照が透になってしまう。

良いものを見た後に普通のものを見ても全然物足りない。

「僕としては…やはり透にお願いしたい」

「…どの部分?」

「生駒の小児科全部」

透のキラキラした目がしっかりと僕を捉えていた。

「…常勤?」

「常勤も何も、前に言った副院長で。
透が来てくれるなら紺野以上の給与と休暇を保障する」

休暇は間違いなく取れるわ。
子育てや家族で過ごすのもも、今よりは時間が取れるぞ、多分。

「…いつから?」

「来年4月」

あと4ヶ月ちょっと。

「4月は無理」

「だよねー!」

わかって言ってみた。

「まだ、紺野の小児科は人が育っていない」

透はため息混じりに言った。

「…月火木金の夕診だけなら、紺野に掛け合ってみるよ」



…えっ?
僕が一瞬、俯いたらそんな言葉が前から聞こえてきた。
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