可愛い弟の為に
10.新たなる世界へ
年が明けて3月。
少し早目に退職しようと思っていたが31日が金曜でキリが良かったので31日。



「24年間…途中数年は出向でいませんでしたが、長い間お世話になりました」

朝の内科病棟、ナースステーションで挨拶をする。

「また専門外来で火曜、金曜の午後に伺います。
それと当直も何度か応援しますのでまた宜しくお願い致します」

拍手と花束も頂いて、ああ、本当にいなくなってしまうんだな、と思った。

24年前に医師になり、24年経った。

今までは組織の一部にいて、どこかお気楽な部分があったけれど明日からは全ての責任が自分に掛かる。

そっと自分の肩に手を置いた。



その重さに耐えられるかな。



その手に、急に重力が掛かる。

慌てて振り返ると。

「透…」

透はニコッと笑った。

「今、挨拶をしておかないと出来ないと思うので」

透は姿勢を正した。

「色々とお世話になり、有難うございました」

そう言って、深々と頭を下げる。

「こちらこそ有難う。
小児科存続の危機に来てくれた事は感謝しても足りないくらいです。
本当に有難う」

僕は手を差し出した。
透も差し出し、握手を交わす。

周りにいたスタッフが拍手をする。



ああ…歳のせいかな。

涙が出そう。
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