可愛い弟の為に
「…あ」

桃ちゃんは後ろにいる僕に気が付いた。

「電気消しちゃった。ごめんなさい」

「いいけど」

「部屋が暗い方が夜景が綺麗に見えると思って」

そう言って再び桃ちゃんは窓の外を見つめる。

「隣、いい?」

「うん」

桃ちゃんは心持ち左に座り直した。

僕は右側に座る。

「…前にも聞いたと思うけど、どうして断らなかったの?」

僕が断ればこの話はなくなった、とでも思っているのだろうか。

「断るも何も。
あの翌日に決められてたし」

「婚姻届にサインしなければ良かったじゃない」

ほー、自分を差し置いて僕だけ悪者ですか。

「僕は両親と取り引きをしていたからね」

桃ちゃんは僕を見つめた。

「何の」

「弟の自由と僕の結婚を引き換えに」

「何それ」

そうね、普通はそう言うね。

「桃ちゃんのご両親も僕の両親も似ているって事だよ」

そう言うと桃ちゃんは俯いた。

「…そうなんだ。
私の話、聞いてくれる?」

桃ちゃん、ようやく少しは信頼してくれたみたい。

僕はもちろん、と言った。
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