可愛い弟の為に
「小さい頃から私は医師と結婚させるってお父さんから言われてたの」

ああ〜…実家が開業医だとよくある話ね。
特に桃ちゃんみたいに女の子しか産まれなかったら余計だろうね。

「高校生になったらいよいよ本気で探しだして…。
1年の時からずっと探されて。
私には見張りまで付けて男が近寄って来ないようにされてた。
私だって普通に高校に通って彼氏作ってって人並みの夢があったのに」

桃ちゃんの大きな目から涙が溢れた。

「人の恋愛の自由を奪って何が楽しい!
そんな事するなら、病院なんて潰れてしまえば良いのよ!!」



その意見、半分同意。
潰れてしまえ、とは僕は言えない。
やはり苦労されてあそこまで大きくしてこられたのだろう。

ただ、結婚相手に全てを押し付けるな、と思うね。
それをわかっていて引き受けるウチの父親もおかしい。
息子に経営力があると本気で思ってるのか?
医師としての仕事だけで精一杯だよ。



「まだ誰ともお付き合いした事がないのに、それなのに結婚って…。
しかも高校卒業してまだ半年も経ってないし、まだ大学にも入学してすぐなのに、何が結婚だあ〜!」

桃ちゃんは大号泣。



あああ…透より邪魔くさい。
でも、突き放すのもなあぁ…。

仕方がない。



僕は桃ちゃんの頭をよしよし、と撫でた。

怒り狂っている目を僕に向ける。
思わず腹を片手でガードした。
< 38 / 126 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop