可愛い弟の為に
「大学は基本6時で終わるから、7時過ぎには帰ってくると思う。
それからご飯でも大丈夫?」

へぇ、そんな事を言ってくるとは思いもしなかった。

「僕、7時に帰ってくる事なんてまずないよ。
日付変わる事が多いし」

「えっ?」

桃ちゃんが目を丸くしている。

「だから夕食は僕を待つ必要はないよ。
温めて食べるから置いといて」

…何、その不満な顔。

「食べた後はちゃんと片付けておくから」

更に不満顔。

何で!?
ちゃんと片付ける旦那の方が楽だろ?

「じゃあ至さんが帰ってくるまで寝てるから起こして」

はあ?

「一人で食べるご飯なんて嫌だ」



…独りが寂しいのか。



「…ごめん。そうするよ」

と言った瞬間、ニヤリ、と笑った桃ちゃん。



完全に彼女のペースに嵌められた気がした。



それからは朝まで、延々と身の上話。

桃ちゃんの家庭は案外複雑だった。

両親は小さい頃から我の強い桃ちゃんを敬遠していた。
桃ちゃんは愛情が欲しかっただけなのに。
妹の撫子さんはあまりそういうのがなかったらしく、両親は扱いやすい撫子さんを可愛がる傾向だった。

桃ちゃんを早く家から出したくて結婚、という形で追い出した。

相手には病院の後継者になるであろう僕を選んで。

最初は同い年の透が候補だったが何せ二人とも若いし大学生。
透は逃げる可能性大。

10歳も離れている、というのは桃ちゃんを管理させるにも好都合だったらしい。



これを聞くとウチの家も舐められたもんだよ。

『開業医』の名に踊らされてるな、父さん。
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