可愛い弟の為に
「インフルエンザだね」

結果を見て、更に血液検査に回す。
脱水が酷い。
入院したほうがいい。

「お母さんは?」

透が連れてきた女の子に聞く。
まあ、親が連れて来ていない時点で何かあるんだろうとはすぐに想像がつく。

「仕事に行きました」

「…そう。連絡は取り辛い?」

彼女は頷く。

「多分入院しないといけないかなって思う。もし連絡取れるなら無理矢理にでも取って欲しい。連絡が取れたら僕に代わって欲しい。伝えたい事があるんだ」

入院させるにしても同意書の記入は明日になるな。
きっと保証人は空欄になるだろうし。
まあ、透の大切な友達だし、少しだけ協力するか。

「先生、電話が繋がりました…」

ようやく彼女の母親と連絡が取れたらしい。
僕はそのまま代わる。

「私、紺野総合病院内科の高石と申します」

電話の向こうは騒がしかった。

『はい、ハルから聞きました』

「そうですか、ナツちゃんの状態が良くありませんので入院手続きを取ります。お母さんには同意書と保証人の欄を誰かに記入していただきたいのです」

『ハルじゃ駄目ですか』

「それは出来ません」

『同意書は書いても保証人は誰にも頼めません』

「じゃあ、僕が書きます。お姉さんと僕の弟が高校の同級生なので、これも何かあっての事でしょう。
ただ、この病院は家族の付き添いが必要です」

『ハルにさせてください。私が働かないとハルの学費も出せず、生活もやっていけません。お願いします』

「…お母さん、ハルさんに任せるにしても出来るだけ時間を作って顔くらいは見に来てあげてください」

『はい』



母子家庭でギリギリの生活をしているのだろう。
それでもここはお姉ちゃんがしっかりしているから崩壊していないのだ。

僕は入院手続きの書類を看護師から受け取り、保証人の欄に自分の住所と氏名を書いて印を押した。



「この病院は出来るだけ家族の付き添いが必要なんだ。お母さんが難しいなら君が出来るかい?」

「はい」

この時のハルちゃんは淡々としていた。
どこかにいつもの事、という雰囲気が漂っている。

「透」

僕はポケットから財布を出すと

「入院に必要なものがそこに書かれてあるから買ってきてあげて」

そう言って透にお金を渡した。
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