可愛い弟の為に
「至先生」

会議が終わり、内科病棟に向かっている途中、太田先生に声を掛けられた。

「ありがとうございます。
先生のお陰でどうにか小児科は存続出来そうです」

太田先生が僕に頭を深々と下げる。

「止めてください、太田先生。
父の馬鹿な思考のせいでどれだけ病院に迷惑を掛けているか…。
僕と弟が償います」



本当にどうしてあんな人が院長しているんだろう。
誰か…下剋上を…。
あ、透なら出来るかも。



「どうしてもこの病院は外科が強いですから。
内科や小児科、産婦人科に皺寄せが来てますね。
ただ、いざという時のリーダーシップは院長先生が一番ですから。
今の構図は仕方がないですね」

太田先生も桃ちゃん並みに僕の心を読めるのか。

「弟さん、楽しみですよ。小児科医としての力量がどれくらいか、早く見てみたいです」

そう言っていただけると光栄です。

太田先生とはそこで別れ、僕は内科病棟へ向かう。



僕も楽しみだよ、透。
ようやく4月から一緒に仕事が出来る。
どれだけこの時を待っていたか。

廊下の窓から見える月があまりにも綺麗なので思わず立ち止まる。
一瞬、目を閉じた。

どうか、透にとってこの転勤が人生の良い選択になりますように。
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