可愛い弟の為に
3月上旬。

透は病院への挨拶をする為に同じく赴任してくる神宮寺 速人先生と共にやって来た。
僕の案内で小児科の医局へ行く。

「お世話になります、高石 透と申します。宜しくお願い申し上げます」

その声にますます磨きがかかっている。
声優になれるぞ。

「同じくお世話になります、神宮寺 速人です。宜しくお願い申し上げます」

こちらは透よりも3歳年下と聞いている。
身長も高いし、イケメン。
大学で出会ってから、ずっと透の後を追いかけてここまでやって来たらしい。

男にモテるのか、透は。

「至先生から色々と聞いております。どうぞよろしくお願いします」

太田先生が多忙極まりない中、わざわざ時間を作ってくれた。

「こちらこそお役に立てますように、全力を尽くします」

透の柔らかい声が響いた。

「シフト等でご希望があれば今のうちにお聞きしておきますが」

太田先生の親切な申し出に透は首を横に振り、

「僕達はどのシフトでも入ります。その辺りはお任せします」

神宮寺先生も頷く。

「大丈夫ですか?当直がどうしても多くなりますが」

「ええ、向こうで相当こなしてきていますから心得ております。
それよりもここの小児科をどう運営していくか、ですね。
今までと違う人間が入りますから最初は色々と問題も出ると思います。
それを超えることが出来たらシフトも落ち着いてくるとは思いますが」

透の真っ直ぐな目が太田先生を捉えた。
その瞳は見るもの全てを惹きつけるような輝きがある。

「…期待していますよ、透先生」

太田先生は安堵の表情を浮かべ、ニッコリと笑った。



あの気難しいと言われている太田先生の心を一瞬でつかむとは。
透は何か魔力でも持っているのではないかと思う。



ついでに小児科病棟のナースステーションへ。

「至先生の弟さんですか!!」

人の噂話が大好きな看護士たちがキャアキャア言っている。

「小児科でお世話になります、高石 透と申します。宜しくお願い申し上げます」

「「お願いしま~す!!」」

ナース達がニコニコ笑いながら挨拶をしている。

「同じく小児科でお世話になります、神宮寺 速人です」

その瞬間、キャーという声が上がる。
あ、白衣のアイドル誕生の瞬間だ。
ナース達が好きそうな芸能人並みの顔だし。



小児科は3人の医師が辞職する危機に追い込まれたがその絶望的な状況をこの新しく入ってくる二人が打開して良い方向に持って行ってくれたら、と思う。

うん、大丈夫。
透なら、きっと。
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