可愛い弟の為に
「透先輩はですね」

「もういい、もうこれ以上話すな、速人!」

「嫌です、お兄様に報告です」

その夜、僕の家で桃ちゃんを含めた4人で夕食を共にした。

「仲良いのですね~」



桃ちゃん、ニヤニヤしてますよ。
また頭の中で妄想が蔓延っているに違いない。
僕は桃ちゃんが気付くようにわざと咳払いをする。
桃ちゃんは僕を見てニヤニヤをますます強調する。



「俺、透先輩に憧れて小児科を選びましたし。
大学生の時からずっと付いて回っていましたよ」

「ストーカーっぽいですねえ」



桃ちゃん!
顔!!
ニヤけ過ぎ!!!



「透先輩と本当に仲の良い、哲人先輩っていう方も同じことを言ってました!」

でも…。
神宮寺先生はそう言って俯く。

「あの大学に入ったのは本命の合格が難しかったので合格する可能性のある大学を選んだのです。
地元からも遠くて、心細くて。
寂しさを紛らわすために始めた塾の講師のバイトで透先輩と知り合いました。
偶然、地元が同じ。
それだけですごく元気をもらって…、以後、大学病院でも追いかけて。
公立病院は諸事情で追いかけられませんでしたが。
透先輩から今度は紺野総合に誘って頂いて即答しました。
おかげさまで念願の地元に帰って来られたわけです」

嬉しそうに神宮寺先生は笑っていた。



透もあちこちで人を助けているんだな。
それが大きな人脈を作り出しているんだろうけど。



「二人とも、4月から楽しみにしているよ。
僕は内科だけど、何かあればいつでも言って」

「はい、宜しくお願いします」

透は頭を下げた。

「宜しくお願いします!」

神宮寺先生も元気よく頭を下げた。



この二人のおかげで、小児科は何とか持ち直した。

二人がメインになって小児科の当直を回し、透は僕と同じく、救急の専門医でもあるので病院全体の夜間救急にもそれなりに入っていた。
全体的に沈みかけていた病院の雰囲気を根底から持ち上げたのだ。
エネルギッシュに働く二人を見て他科の若手も頑張りを見せた。
今まではどこか投げやりになっていた者もそれではいけないと気付く。
透自身は気が付いていないかもしれないが『意識の改革』をやってのけたのだ。



それから約5年の月日が経ち、透は小児科部長になっていた。
神宮寺先生も小児科にはなくてはならない医師に成長していた。






そんな時、透の心をかき乱す、あの出来事が起こる。
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