可愛い弟の為に
「桃ちゃん、ありがとう」

帰りの車内でお礼を言うと

「至さんこそ、大丈夫だった?」

信号待ちの時、僕の手に自分の手を重ねてきた。

「あの時、私…。
至さんの人格が変わりそうで怖かった」



…そっか。
実は僕も…自分で自分を抑えられないと思ったんだ。



「何かを思い出していた?」

僕を見る桃ちゃんの目は切ない。

「…うん、少し」



もう、二度と取り戻せない記憶の数々。
小さい頃からどこかで僕に一線を引いていた透。
それは母さんが引いた線。
僕達は仲良く過ごしたかったのに。
最初は寂しそうな顔も見せていたのにやがてそういう表情も見せなくなり、僕と会う時は無表情になっていった。
それを思うと本当に辛い。
透が喜怒哀楽を取り戻したのはハルちゃんと出会ってからだ。
ハルちゃんとの出会いが僕と透の仲も取り戻してくれたのだと思う。
だから二人には幸せになって欲しい。



「桃ちゃん、天気もいいし、ドライブにでも行こうか!」

桃ちゃんの目が輝く。

「うん!」

僕と桃ちゃんは顔を見合わせて笑った。
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