可愛い弟の為に
「内科高石です」

午前の外来診察の合間にPHSが揺れた。

「高石先生、院長秘書大野です」

声が動揺していますよ。
切羽詰まった様子だった。

「つかぬ事をお聞きしますが、先生、奥様の他に付き合っている方なんていらっしゃいませんよね?」

…診察時間中に一体、何の話?

「…いたら、妻に殺されます」

頭の中で、桃ちゃん、鬼の形相。
仁王立ち。

「あの…どの高石先生かはわかりませんが彼女さんが体調不良で倒れたそうです。
それを受付がこちらに外線を回してきて…」



おい、受付!!

歳の順番で考えたら普通は透だろ?
何故、一番年取ってる院長…。

そんな目で見られているのだろうね、父さん…



「で?」

「院長が対応されました」



…非常にヤヤコシイ話になってきましたよ。



「…で?」

「院長が直々に江坂先生に検査オーダーの指示を出されて入院手続きの処理をされました」

「ああ…そう…」



もう、内科を通り越して直接産婦人科に行ったのね。

透が刺されるか殺されるかも。
一瞬、本気で思った。



「あの…失礼承知で申し上げます。
質問をさせてください」

あ…この子、最近入った子だな、確か。

「はい、どうぞ」

「どの高石先生の彼女さんですか?」

後ろで笑い声が聞こえてるぞ!

「小児科の高石にしか彼女はいませんよ。
ところで隣の斎藤さんに代わって貰えます?」

「はい、お待ちください」

…次、会った時に説教してやろうかと思ったけど、忘れたら腹立つから今してやる。

「はい、斎藤でございます」

「あのね、僕、診察中。
新人さんにアホな質問させないで、その辺りの人間関係くらい、父の昔からの秘書なら教えて差し上げなさい」

「はーい、申し訳ございません…が!」



…その『が!』は何?



「さっき、院長が透先生に午前診が終了次第、院長室へ来るように連絡していました。
こういう情報は大切だと思いまして」

「あ、どうもありがとう」



もう、棒読みの『ありがとう』



父さんの怒りアベレージMAXだな。

透、呼び出されたのか〜!



僕は通話を切って、項垂れた。
…朝から疲れた。
今日は当直なのに、勘弁してくれよー!
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