可愛い弟の為に
「至兄さん、透兄さんのお相手はどれだけ凄い人なんですか?」

イトコの中でも一番年下の恵実は僕と19歳、離れている。

僕が家を出ようとしたら恵実に引き止められた。

姉の惨敗を目の前にして僕に憎しみの視線を向ける。

「…凄いとかそういう話ではない」

淡々と返す。

「もう、会った瞬間にお互いがお互いしか見えないの。
誰もそこには入られないんだよ。
透にとって彼女はそういう存在だし、彼女にとって透はそういう存在」

「…わかりません、何言ってるのか」



まだまだ、世の中見てないなあ。



「じゃあ恵実もあちこちに行って、色んな人に会ってきたら?
そうでもしないとそういう存在の人には出会えないよ。
いや、出会っていても気付いていないだけかも」

まだ恵実は不服そうだ。
やがて、

「相手はどちらの大学を出ているのですか?」



親も親なら子も子だ!



「大学なんて出ていない。
高校卒業してからはずっと働いている。
歳の離れた妹の面倒を見ながらね」

「なんだ…」



何が『なんだ…』なの?



「それじゃ全然、透兄さんと釣り合わない」

「それはお前が決める事ではない」

今、多分僕は冷たい目をしていると思う。
恵実が明らかに怯えていた。

「彼女の事を何も知らない癖に、とやかく言うな。
彼女は高卒だけど、会社で経理をしているし、何より、お母さんが亡くなってから妹を透と同じ大学の医学部に入れて、仕送りしている。
自分の生活は最低限で抑えて残りすべてを妹に出しているんだよ!」



いつまでも親の脛をかじっているお前達姉妹とは訳が違う。



「何がなんだ…だ。
人を見下すのもいい加減にしろ。
今後、透の彼女を含めて僕の大切な人達の前でそういう事を言ったら承知しない」



僕はそう言って家を出た。
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