可愛い弟の為に
ちょっと、休憩しよう。
お昼ももうすぐだし。

そう思って入ったお店はたまに桃ちゃんと来るカフェ。

「至先生」

後ろから肩を叩かれた。



誰っ!?
患者さん!?同業者!?



僕はゆっくりと振り返る。

「あ…!」

美しい黒髪が印象的な小児科の研修医、黒谷先生。
確か今年で後期研修終了だ。
透が指導している。

「驚きました、今日はお一人ですか?」

「うん、まあ、色々あって」

その後ろには…。

「お久しぶりです、高石先生」

「若林先生…」

透が紺野総合に来る前に、小児科にいた先生。
父さんと意見が対立して辞めた。

「一緒にどうです?お昼」



驚いたな。
若林先生の言葉に僕は頷いた。



オープンテラスでの昼食は心地よい風が時折吹いて快適だった。

「弟さんにはいつも雪がお世話になっているみたいで…」

「いえいえ、こちらこそ黒谷先生には助けられていると思いますよ」

「私の後も見事に埋めたとお聞きしてホッとしました。
正直、辞めていくのには抵抗がありましたがもうあれ以上は無理でした」

「父の無礼でご迷惑をお掛け致しました。申し訳ございません」

僕は頭を下げると若林先生は慌てて首を振った。

「そのおかげで昔からの夢だった開業をすることが出来ました。
そういうきっかけがないと難しいですね」

そう言って微笑んだ若林先生は昔と何一つ、変わっていなかった。

「僕も来春には紺野を辞めます」

「えっ、高石先生が?」

若林先生と黒谷先生は目を丸くして驚いた。

「ええ、もうだいぶ前から決まっている事です。
妻の実家が開業医でして、そこを継ぐことになっています。
あと、2~3年以内にそこで病児保育もする予定です」

「それはすごい!!」

「僕の妻が保育士でして、いつかはしたいと思っていました。
今、色々と準備中です」

「もし良かったら、軌道に乗ってからで良いので一度見学させてください」

若林先生の目が輝いた。



ああ、やっぱり。
この人も透と一緒だ。



「是非是非。
僕がもし、病院運営で悩んだら若林先生、相談に乗ってくださいね」

「いやいや、私なんて高石先生の足元にも及びませんよ」



いえいえ、若林先生。
僕は聞いていますよ。
貴方の病院は毎日、混んでいて診察してもらうのが大変だって。
でも、地域の子供を持つお母さん、お父さんは皆、若林先生の病院へ行くって。
それだけ、両親と子供たちの信頼を得ているんですよね。

僕は大人相手だけれど、そうなれるように頑張ります。



その後、2時間弱、二人と話をしていた。
他愛のない話ばかりだったけど、楽しかった。
重苦しい雰囲気から僕を少しだけ助けてくれて若林先生と黒谷先生には感謝。
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