東の国 妖合戦
その時だった。

「ふぅぅぅぅ~…」

血で血を洗う物の怪どもの戦場に似つかわしくない、間延びした声が響いた。

「いいお湯だったのに…こんなに慌てて出てきたんじゃ、湯冷めしちゃうにゃあぁ…」

そこには、腰まである黒髪、黒い猫耳、黒い尻尾を持つ娘が立っていた。

肉感的な、若い色気を醸し出す妖怪。

あろう事か、風呂上がりなのか。

その身には一糸纏ってはいない。

「何だ何だ、お嬢ちゃん本当に妖怪かい?」

「山奥の秘湯に迷い込んだ人間が、勘違いして関ヶ原に出て来ちまったんじゃねぇかぁ?」

鬼婆が、雷獣が、場違いな珍客ににじり寄った瞬間。

「寄るな東の」

可愛らしい顔立ちが一変、敵意を持つ者が近づいた事で、猫の眼となって牙を剥く。

瞬時に振るわれた両手の鉄より硬い爪が、鬼婆と雷獣を、少なくとも百の細切れに切り刻んだ。

「西の猫娘、三毛を嘗めるんじゃないにゃ」

< 12 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop