東の国 妖合戦
西の国の悪五郎
「悪五郎様、悪五郎様~っ」
山林の中、前髪を切り揃えた長い黒髪、肩を大きく肌蹴た薄紅色の着物を身に纏った少女が忙しなく走る。
和装の少女か。
しかし人間の少女と大きく異なる点。
彼女には瞳が一つしかない。
大きな単眼だった。
だからという訳ではないだろうが。
「あっ」
足袋に草履を履いたその足が、木の根に引っ掛かる。
大きく体勢を崩して転倒しそうになった単眼の少女は。
ぽふっ、と。
逆立った黒髪、長上下(ながかみしも)に似た着物を着用する若者に受け止められた。
「騒々しいぞ泪(るい)」
「あっ、も、申し訳ありません悪五郎様~っ」
頬を朱に染め、大きな単眼をキョロキョロと泳がせる姿は、妖怪とは思えぬほどに愛らしい。
魔界の十三の悪魔の棟梁の一人であり、『神野 悪五郎日影(しんの あくごろうにちえい)』の名で第六の魔王とされているこの若者の身の回りの世話をしている女中の一つ目娘は、悪五郎から一歩下がる。
「して…三毛(みけ)の所在は」
「は、はいぃっ、今ようやく湯浴みから上がったばかりという事ですぅっ、こちらへの合流は、些か遅れるのではないかと…」
「三毛め…」
悪五郎は鋭くつり上がった眼を、更につり上がらせ、手にした三尺(約90センチ)程のねじ棒で地面を叩いた。
「これから大戦(おおいくさ)だというのに」
山林の中、前髪を切り揃えた長い黒髪、肩を大きく肌蹴た薄紅色の着物を身に纏った少女が忙しなく走る。
和装の少女か。
しかし人間の少女と大きく異なる点。
彼女には瞳が一つしかない。
大きな単眼だった。
だからという訳ではないだろうが。
「あっ」
足袋に草履を履いたその足が、木の根に引っ掛かる。
大きく体勢を崩して転倒しそうになった単眼の少女は。
ぽふっ、と。
逆立った黒髪、長上下(ながかみしも)に似た着物を着用する若者に受け止められた。
「騒々しいぞ泪(るい)」
「あっ、も、申し訳ありません悪五郎様~っ」
頬を朱に染め、大きな単眼をキョロキョロと泳がせる姿は、妖怪とは思えぬほどに愛らしい。
魔界の十三の悪魔の棟梁の一人であり、『神野 悪五郎日影(しんの あくごろうにちえい)』の名で第六の魔王とされているこの若者の身の回りの世話をしている女中の一つ目娘は、悪五郎から一歩下がる。
「して…三毛(みけ)の所在は」
「は、はいぃっ、今ようやく湯浴みから上がったばかりという事ですぅっ、こちらへの合流は、些か遅れるのではないかと…」
「三毛め…」
悪五郎は鋭くつり上がった眼を、更につり上がらせ、手にした三尺(約90センチ)程のねじ棒で地面を叩いた。
「これから大戦(おおいくさ)だというのに」