不条理カウントダウン
朝綺は視線だけをそらした。
薄いえくぼが消えて、唇が力なく動く。
「好きだよ。おれは麗ちゃんのことが好きだ。
だけど、付き合うなんてさ、つらいよ。おれ、文字どおり、まったく手出しできないんだぜ」
「麗が、今日の晩はここに泊まると言ってた。そういう約束なのか?」
唇を半端に開いたまま、朝綺は少しの間、沈黙していた。
目を閉じて、声を出さずに笑う。
色素の薄いまなざしが、ぼくを見た。
「麗ちゃんが望んでくれることを、おれは拒絶しないよ。
体は動かない。でも、心まで、がんじがらめになっていたくはない。
兄貴としては、おれのこと許せない?」
「許せない、殴ってやりたい、と言いたいところだけど。わからない」