不条理カウントダウン
「小説を読んでほしい、と。司馬遼太郎の新選組を朗読してほしい、と主人が言っているんです」
藤原さんは歴史小説が好きで、ぼくにもたくさん勧めてくれた。
あるとき藤原さんは、いいことを思い付いた、と、ぼくに司馬遼太郎を朗読させた。
ぼくが所属する劇団は若手ばかりで、歴史ものの舞台公演はやったことがない。
ぼくは初めて歴史小説を声に乗せてみて、腹の底から熱くなるのを感じた。
声に出して読む歴史小説のダイナミズムに、ぼくは魅了された。
それは藤原さんも同じだった。
ぼくの声と口調が歴史小説に合うと誉めてくれた。
あれ以来、たびたび藤原さんは、ぼくに歴史小説を朗読してくれと言う。
ときどき奥さんも一緒に聴いてくれて、ぼくはくすぐったくも誇らしかった。