不条理カウントダウン
藤原さんは脊髄損傷【せきずいそんしょう】で、首から下が不自由だ。
若いころ、競泳用プールで、飛び込む角度をしくじってしまったらしい。
さばさばとした藤原さんは、たまに事務所に顔を出して、
同じく脊髄損傷で電動車椅子生活を送る所長と、お互いの事故当時の状況をからかい合っている。
聞くからに痛々しい話で、ぼくとしてはとても笑えないのだけれど、
彼らのコミュニティではこれくらいのブラックジョークが日常茶飯事だったりする。
その藤原さんと、きっと、まもなく会えなくなる。
ぼくは過去に一度、利用者さんとお別れしている。
それはあまりにも突発的なできごとで、ぼくは覚悟する余裕すら与えられず、
ただ震えながらマニュアルどおりの処置を施して救急車を待つばかりだった。
病院で彼の死亡を告げられたのは、隣県に住む彼の家族ではなく、ぼくだった。