不条理カウントダウン
麗は右手を口元に持ち上げて、親指に噛み付いた。
子どものころからの癖だ。
右手の親指の爪は削れて、半分も残っていない。
つねに血をにじませていて、痛いに違いないのに、麗はその癖をやめない。
「おにいちゃん、さっきの電話、何? 明日の仕事、キャンセルなの?」
「うん。利用者さんが入院しちゃってね」
「ちょっと聞こえてた。肺炎? 朝綺【あさき】、人工呼吸器を付けるの?」
麗は張り詰めたまなざしをしている。
十七歳。
綺麗になったなと、不意に思った。
あどけなさは残っているけれど、兄の欲目を差し引いても、麗は美人だ。