不条理カウントダウン


「朝綺じゃないよ。午前中に訪問する先の、藤原さん。深刻かもしれないって、今の電話で聞かされた」



「そう。そっか、朝綺じゃないのね」



 麗は大きく息をついて、親指をくわえながら、うつむいた。


安堵に緩んだ麗の顔を、ぼくは見なかったことにする。



「朝綺のところには、いつもどおり行ってくるよ。夕食は、作って置いて行くから」



 利用者さんの中で、朝綺は特別だ。


ぼくは大学時代から彼を知っている。


学園祭で演劇部の公演を観に来てくれた、車椅子の利発な少年。


整った顔立ちで、ちょっと生意気な口を利く彼が、朝綺だった。


朝綺はぼくが書いた冒険ものの脚本を気に入って、終演後にわざわざ声をかけてくれた。


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