48歳のお嬢様
セッションが終了した西島さんが私達の席を訪れた。


「いらっしゃい雪恵ちゃん、セッション聴いて貰えて嬉しいよ。
もう少し早く来てくれていたら、ピアノを雪恵ちゃんに変わって貰えたかも知れないね、残念だったなぁ」


「あら、専属のプロを差し置いて弾くわけにはいかないわ」


「西島、雪恵様はオーナーだろう。言葉遣いを慎めと何度言ったら分かる?
それにお前がセッション出来るようなお相手ではない」


「よう、花村、お前も居たのか。
いつもお堅いボディーガードでご苦労なこったな…。
じゃあ、お前のピアノで雪恵ちゃんに何か唄って貰うのはどうだ?
花村ならお相手出来るんだろうよ」


「お相手はできるが、ここでは雪恵様がお唄いになることはないな」


「西島さん、ごめんなさいね、和樹ったら私がクラブで唄うことに反対なのよ。
ピアノなら後で少しだけ、ね」


「ふん。仕方ないよな、雪恵ちゃんは素人離れしたジャズシンガーでもあるのになぁ…」


「そんなのは、わかりきっていることだ。
プロ並みでいらっしゃるから、もったいなくて西島には聴かせられないんだ」


「……けっ。まったく花村は雪恵ちゃんベッタリで気に食わない。
旦那でも彼氏でもないのに束縛しすぎなんだよ。
雪恵ちゃんも、いつもいつもこいつと一緒で嫌にならないのかい?」


「和樹と一緒に居て嫌だと思ったことなんか一度もなくってよ?
ずっと一緒に居て貰いたいわ…。
ただの執事じゃないんだもの。
運転手も秘書も生活に必要なことは何でもこなしてくれているし、
こうやって旦那様の役も恋人の役もしてくれるもの」


「ぶっ……。『役』ねぇ。
花村、御愁傷様でごぜえやす」


「やかましい。お前はその役にもなれない役立たずだろうが」


「ちょっと、貴方達どうしてすぐにそうやって言い合いになるの?
大学の同期って、もっとこう…親しくお付き合いしてもいいんじゃないの?不思議だわ…」


「雪恵ちゃん、花村と俺が仲良くなったら、そっちの方が不思議だよ」


二人して仲良く同じことを言うのにね……。







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